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    「9月1日問題」――不登校について

    • 執筆者の写真: アキラ イハラ
      アキラ イハラ
    • 2022年8月26日
    • 読了時間: 6分

    夏休みが終わり2学期が始まるこの時期を、つらい気持ちで迎える子どもたちとその家族がいます。子どもの自殺が増えることから「9月1日問題」と呼ばれ、多くの教育関係者も緊張の中でこの日を迎えます。学校がすべての子どもたちにとって楽しく通える居場所であればいいのですが、現実には学校に「行かない」「行けない」子どもたちも決して少なくありません。




     


    1 たくさんの子供が不登校になっている。


    不登校の子どもが実際にどのくらいいるのかを把握することは実は簡単ではありません。長期間学校を欠席している生徒を「不登校」と呼ぶとしても、連続で10日間欠席したら不登校なのか、3ヶ月位欠席が続かないと不登校とは呼べないのかという期間の問題もあるでしょう。病気や怪我で欠席しているのは不登校なのか。病気と言っても心の不調に悩んでいる生徒は不登校なのかなど大変複雑です。


    文部科学省では、「連続または断続して年間30日以上欠席し、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況である(ただし、病気や経済的な理由によるものを除く)」状態を「不登校」と定義しています。


    これによると不登校の対象はとても広いようにも感じますし、一方で悩みが深くて体調に影響が出て病気と診断されてしまうと不登校からは外れてしまうことになります。実はこのような病気の診断を得ている生徒がとても多いのではないかと感じています。


    まずは文部科学省の定義に沿った統計を頼りにその数を見てみましょう。




    文部科学省の統計では、不登校生徒数は長期間高止まりしたあと、この10年ほどで更に急速に増加しています。コロナ禍がさらに追い打ちをかけているとも考えられます。


    令和2年の数値では、小・中を合わせた不登校生徒数は196,127人。これは先述の定義に沿った「不登校」生徒数です。これ以外に長期欠席者(経済的理由や病気を含む)の数は令和2年では287,747人。全生徒数に占める割合はおよそ3%です。小中学校のすべてのクラスに1人以上の不登校、または長期欠席者がいることになります。


     


    2 いろいろな不登校がある。


    文部科学省が毎年公表している「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」では不登校の要因として以下の項目を設けて分類を行っています。


    ・いじめ(0.2%)

    ・いじめを除く友人関係をめぐる問題(10.6%)

    ・教職員との関係をめぐる問題(1.2%)

    ・学業の不振(5.4%)

    ・進路に係る不安(0.8%)

    ・クラブ活動、部活動等への不適応(0.4%)

    ・学校の決まり等をめぐる問題(0.8%)

    ・入学、転編入学、進級時の不適応(3.3%)

    ・家庭生活環境の急激な変化(2.9%)

    ・親子の関わり方(8.9%)

    ・家庭内の不和(1.8%)

    ・生活リズムの乱れ、あそび、非行(12.0%)

    ・無気力、不安(46.9%)

    ・その他(4.9%)

    ※( )内はその割合〈2020年小・中学生の資料〉


    このように不登校の要因やその継続の理由は様々です。年齢によって理由は変化します。高校生では、学業の不振や進路に係る不安の数値が上昇します。また不登校状態の継続によって要因が変化することもあります。学校へ行かないことにより学習の遅れや生活の乱れが加わることで、不登校の解消がますます難しくなる面もあります。



     

    3 学校復帰?それとも・・・


    子供が不登校になったとき、多くの親は焦って学校への早期復帰を目指します。確かに具体的な問題が明確になっているときは、学校や支援センター等の援助を求めながら、問題を一つずつ解決していくことが必要です。一方で親の焦りが状況を悪化させることにも注意が必要です。


    不登校問題の難しさの一つには、学校がほとんどの子どもたちにとって唯一の社会であり、その社会との接点を失うことへの恐怖や不安が挙げられます。

    学校へ行かないことは、単に「勉強の場の一つを失うこと」に過ぎないと言うこともできるのですが、それ以上の意味を持つと多くの人は考えてしまいます。学校復帰を唯一の解決と目標にすると不登校はさらに苦しく辛いものになってしまいます。視野を広く持つことが大切です。



    文科省の不登校に関する調査研究協力者会議が平成28年7月に提出した「不登校児童生徒への支援に関する最終報告」の中で、「不登校児童生徒への支援の目標は、児童生徒が将来的に精神的にも経済的にも自立し、豊かな人生を送れるよう、その社会的自立に向けて支援することである。」と述べられています。


    不登校の支援は目先の学校復帰ばかりを目指すのではなく、将来自立して豊かな人生を送れるように導くことだとしているのです。








    さらに、「児童生徒によっては、不登校の時期が、いじめによるストレスから回復するための休養時間として意味や、進路選択を考える上で自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つこともある。」と続けています。やむを得ず傷ついてしまった心には回復の時間が必要なのです。この時期に対応を誤るとますますこじれてしまいます。


    一定期間不登校の状態が続いたとしても、また学校での生活へ戻っていける場合も少なくありません。少し古い資料ですが、小中学校での不登校経験者のその後の進路状況を調べた調査では以下のようになっています。


    ・高校進学率 85.1%

    ・大学、専門学校等への進学率 37.7%

    〈平成18年度不登校実態調査より〉


    通信制高校がより一般的になってきた現在では、さらに数値が上昇しているかもしれません。


    逆に将来の自立を目指す際に現実的に障害となるものは何でしょうか。前出の最終報告では「不登校による学業の遅れ」と「進路選択上の不利益」を挙げています。大学や専門学校への進学には高校卒業資格が必要となります。進学のための受験や資格取得の受検には学力も必要となります。一切の学歴を必要としない職種となると選択肢が限られてしまいます。


    公的な支援では、教育支援センターが全国に1,142ヶ所設置されています。(平成29年文科省調査)また、学習塾やフリースクール、家庭教師、インターネットを介した動画授業やオンライン学習指導サービスなども利用できます。不登校経験者の受け入れ経験が豊富な通信制高校なども大きな力となるでしょう。


     


    4 全員が学校に合うわけではない


    我が子の不登校を経験した親の中には、学校復帰がかなわないことを学校や教育委員会の責任と考える人もいるようです。しかし千差万別の子どもたちがいる中で、すべての子どもに合う学校環境などあり得るはずもありません。誰かに合わせればまた別の誰かに合わなくなります。


    「学校に行かなければならない」――学校が子どもたちにとって苦痛の場となったときには、この呪縛から解放してあげることが何よりも大切です。子どもたちが最終的には自立して豊かな人生を送れるようになることが目標なのですから。






     
     
     

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